“肝機能が異常”と健診で引っかかってしまった方へ
肝臓は、非常に優れた再生能力を持ち、私たちの活動エネルギー源を産生・貯蓄し、さらには解毒まで担う臓器です。また、その症状の現れにくさから「沈黙の臓器」と呼ばれています。
血液生化学検査のデータからは、肝臓の健康状態を正確に把握することが可能です。原因を特定し、適切な治療を行うことで、肝機能の異常の改善は十分に期待できるものとなります。
また、西宮の大岡クリニックでは日本肝臓学会専門医である院長が診療を行いますので、ご安心して来院いただけます。
肝臓の病気について
脂肪肝
通常、食事で摂取した脂肪は、小腸で脂肪酸に分解され、肝臓へと送られます。
しかし、糖分や脂質の摂取過多により、肝臓に届く脂肪酸が増加すると、肝臓内に中性脂肪が溜まります。食べ過ぎ・飲み過ぎにより、肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態を「脂肪肝」と呼びます。
脂肪肝は、動脈硬化をはじめとする様々な生活習慣病を引き起こすリスクを孕みます。男性の場合は40歳前後、女性の場合は40代以降の年齢層で多発しています。
肝炎
アルコールの摂取過多により、肝機能検査で異常な数値を示したとしても、最初のうちは肝臓の病気になっていないことがほとんどです。
しかしその生活を継続していくと、脂肪肝へと進行し、その脂肪肝の状態が長期間続くと、アルコール性肝炎となることもあります。
アルコール性肝炎は、初期のものであれば禁酒により肝臓機能の回復が期待できます。
肝硬変
肝炎が慢性になり、長期間放置していると、肝硬変へと進展します。
肝臓が小さく硬くなり、正常細胞が減少し、肝臓機能が失われていきます。また、肝臓がんを発症しやすい状態になります。
肝硬変は、初期のうちはほとんど自覚症状がありません。ただし、進行するにつれて、色の濃い尿、腹水、黄疸、疲労感、倦怠感、食欲不振、微熱、手のひらの赤み、クモ状血管拡張、かゆみなどの特徴的な症状が現れます。
肝臓がん
肝臓がんは、肝臓から起こる「原発性肝臓がん」と、他の臓器から転移して起こる「転移性肝臓がん」に分けられます。
このうち、原発性肝臓がんの多くは、肝硬変から進展します。自覚症状はほとんどありませんので、早期発見・早期治療のためには、定期的な採血検査や腹部エコー検査、バランスのとれた食生活、規則正しい生活が重要になります。
C型肝炎・B型肝炎の治療情報
ウイルス性肝炎に関わらず、肝炎を放置すると約20~30年で肝硬変になり、40年で肝がんに進行すると考えられます。
注意しなければいけないことは肝炎の状態では自覚症状がほとんどないことです。
症状がなくても放置しておいてはいけません!
1、C型肝炎
インターフェロンを使用しない経口剤(DAA)での治療
~治療期間が短く、副作用が少ない上に、有効性が高い治療法です~
-
- インターフェロン治療で難治性と言われた方
- インターフェロンを含む治療法の副作用が強く途中でやめた方
治療への公的な医療費助成が得られる専門的治療で90%以上の方がウイルス排除に成功しています。
DAA製剤による治療について
1989年にC型肝炎ウイルスが発見され、抗ウイルス療法として1992年からインターフェロンが登場しました。しかし、副作用が多く、ウイルス排除率が低いため、ウルソなどによる肝庇護療法も併用していました。
2014年にDirect Acting Antiviral agents略してDAA製剤と呼ばれる内服薬が登場しました。DAA製剤は内服のみで副作用が少なく、ウイルスの排除率は95%前後と格段に高くなりました。
C型肝炎撲滅のために
C型肝炎に対する医療費助成制度について
C型肝炎に対する治療を受ける方に対して、医療費の公的な助成制度があります。
治療にかかる薬剤費、診察費、入院費などの自己負担の上限を、月額1万円(または2万円)とし、残りの費用を国と自治体(都道府県)が負担します。
患者さん本人が保健所に申請していただきます。助成制度の申請には肝臓専門医、もしくは特定の肝疾患の研修を終えている医師が作成した申請書が必要です。
当院はその条件を満たしておりますので、安心してご相談ください。
1、B型肝炎
B型慢性肝炎は一般的には出産時ないし乳幼児期においてB型肝炎ウイルスが感染することによっておこります。生後数年~十数年間は肝炎の発症はなく、感染したB型肝炎ウイルスは排除されずに患者さんの体内で共存しており、この状態を無症候性キャリアと言います。
思春期を過ぎると自己の免疫力が発達し、HBVを異物(病原物質)であると認識できるようになり、白血球(リンパ球)がB型肝炎ウイルスを体内から排除しようと攻撃を始めます。
この時リンパ球がHBVの感染した肝細胞も一緒に壊してしまうので肝炎が起こり始めます。
一般に10~30才代に一過性に強い肝炎を起こし、B型肝炎ウイルスはHBe抗原陽性の増殖性の高いウイルスからHBe抗体陽性の比較的おとなしいウイルスに変化します。
HBe抗体陽性となった後は、多くの場合そのまま生涯、強い肝炎を発症しません(非活動性キャリアと言います)。このように思春期以降、一過性の肝炎を起こした後はそのまま一生、肝機能が安定したままの人がおよそ80~90%ですが、残りの10~20%の人は慢性肝炎へと移行し、その中から肝硬変、肝がんになる人も出てきます。
B型慢性肝炎に対する治療法
IFN(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)の2剤に大きく分けられます。
(1)IFN療法
慢性肝炎の状態にある患者さんが治療の対象になります。B型慢性肝炎に対するIFN治療は、ペグインターフェロンα2a製剤では、HBe抗原の有無にかかわらず週1回48週間投与が保険適用となっています。IFN療法が奏効すればIFN投与を中止してからも、そのままHBVは増殖せず肝炎は鎮静化します。しかしIFNの効果が不十分でHBe抗原が陰性化しない症例、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する症例も多く、IFN療法の奏効率は30〜40%と言われています。
IFN療法を行うと開始当初にインフルエンザにかかったときのような38度を超える発熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛は必発です。ただしこれらの副作用はIFNを継続して投与していくと徐々に落ち着き、数週後には多くの人では出現しなくなります。また白血球、赤血球、血小板の低下が起こります。これはIFNが血球を作る骨髄の働きを抑えるためです。
糖尿病の人、また膠原病の人は、症状が増悪することがあります。全員ではありませんが、時に間質性肺炎という特殊な肺炎になる人もいます。間質性肺炎になると稀に命にかかわる場合がありますので、強固な空咳、胸痛などが出現した場合はすぐに胸部レントゲン写真を撮影し、間質性肺炎と診断されればIFNを中止して肺炎の治療が必要です。
またIFN治療中に時にうつ病になる人がいます。うつ病がひどくなると自殺する場合があります。うつ傾向が出てきたら、すぐにIFNを中止する必要があります。また眼底出血、脱毛、タンパク尿などが出現することがあります。
(2)核酸アナログ製剤
直接、薬の力でHBVの増殖を抑えて肝炎を鎮静化させます。薬を飲んでいる間はHBVのウイルス量は低下し、肝炎は起こりません。肝硬変で常時腹水がたまっている患者さんが、核酸アナログ製剤の長期投与で肝機能が改善し腹水が消失することもしばしばあります。
しかしIFNと異なり、薬を中止するとほとんどの症例で肝炎は再燃します。一旦内服を開始してから患者さん自身の判断で核酸アナログ製剤を自己中止しますと、時に肝炎の急性増悪を起こし、最悪の場合肝不全で死に至る場合があります。絶対に核酸アナログ製剤を自己中止してはいけません。核酸アナログ製剤のもう一つの問題点は、薬剤耐性株(変異株)と呼ばれる核酸アナログ製剤が効かないHBVが出現することです。初期に保険承認となった核酸アナログ製剤では長期投与により3年間で半数近くの患者さんに薬剤耐性株が出現することが分かりました。なかには、耐性株が出現すると肝炎を抑えることが難しくなる症例もありました。
しかし最新の核酸アナログ製剤は、薬剤耐性株の出現頻度が非常に低く、また以前の核酸アナログ製剤で耐性株が出現した場合にはもう1種類の核酸アナログ製剤を併用すれば耐性株を抑えることができることがわかり、比較的安全に核酸アナログ製剤が使用できるようになりました。
(3)肝庇護療法
肝炎を抑える目的で肝庇護療法を行うことがあります。ウイルス量は減少しません。治療薬は内服薬のウルソデオキシコール酸と注射薬のグリチルリチン製剤が一般的です。いずれの薬剤も軽度の肝障害に対してはある程度有効ですが、B型肝炎特有の急激な肝障害の出現時(急性増悪)には肝庇護剤はあまり有効ではありません。
B型慢性肝炎に対する医療費助成制度について
B型肝炎に対する治療を受ける方に対して、医療費の公的な助成制度があります。治療にかかる薬剤費、診察費、入院費などの自己負担の上限を、月額1万円(または2万円)とし、残りの費用を国と自治体(都道府県)が負担します。
患者さん本人が保健所に申請していただきます。助成制度の申請には肝臓専門医もしくは特定の肝疾患の研修を終えている医師が作成した申請書が必要です。
当院はその条件を満たしておりますので、安心してご相談ください。
今後のB型肝炎の創薬研究
(1)Direct-acting antiviral agents(DAAs)ウイルスを標的とした治療法
B型肝炎ウイルスが肝細胞に侵入するのを阻害する薬剤など、ウイルスの増殖過程を直接阻害する薬剤の開発が進んでいます。
(2)Host-targeting antiviral agents(HTAs)宿主因子を標的とした治療法
免疫修飾物質:
細胞免疫をつかさどるリンパ球を中心とした免疫機能の回復がHBV感染症治癒に重要であることが示唆されています。このような問題を克服するため、免疫系に作用するさまざまな治療薬の開発が行われています。
治療ワクチン(Therapeutic vaccination):
通常、ワクチンは「予防ワクチン」であり,深刻な 感染症を引き起こす病原体に対する感染予防を目的に 利用されてきました。HBVにおいても予防ワクチンの接種で出生時母子感染や医療感染 事故をほぼ完全に阻止できます。
さまざまな改良型 HBV 治療ワクチンが開発されています。
※B型慢性肝炎の治療はC型慢性肝炎の治療に比べて遅れていますが、精力的に治療薬の開発が進んでいます。今後も新しい情報をお伝えしていきます。